第9章 10月『王子様の憂鬱』
(視点)
「…あ……そろそろ、帰らないと。」
雑誌を読み始めて1時間くらい。
ふと外を見るともう夕方になっていた。
夕日が窓から差し込み、瑞希の部屋を照らす。
「……1人で…帰れる?」
「大丈夫だよ。まだ明るいし。」
僕が荷物を持ってそう言うと
瑞希の眉間にシワが寄った。
「…………心配。
瞬に連絡した方がいい……。」
「…でも、」
「……………めっ。」
「トゲッ。」
僕が否定しようとすると
トゲーと2人で口をへの字口にして言う。
……まぁ、いいか。
こちらが折れるのには慣れている。
「………分かったよ。
でも瞬に迷惑かけちゃ駄目だし、
スタジオまで歩いていくね。」
「………ん。知らない人に声掛けられても
無視…分かった?」
「……うん。」
そんな事言われなくても分かってるのに。
「草薙君、気をつけてね。」
「あ、瑞希のお姉さん。
お邪魔しました。」
「ええ………また来てね。」
お姉さんにぺこりとお辞儀をすると
お姉さんはホッとしたように微笑んだ。
「………ん。」
瑞希が僕にふわふわと手を振ったから
僕も振り返すと瑞希が少しだけ笑った。
「……また、明日。」
………本当に瑞希は天才なのかな。
そう思うほどにいつも通りの瑞希が
なんだか擽ったい。
でも、あの本棚と論文は
確実に瑞希が天才だと指している。
「……うん、バイバイ瑞希。
あ、トゲーも。」
「トゲトゲー!」
ううん、瑞希は瑞希だよね。
天才でも馬鹿でも、瑞希。
瞬に『スタジオに行くから家まで
送って欲しい』とメールをしてから
スタジオに向かう。
夕日はゆっくりと落ちていき、
僕の歩く道を照らした。