第2章 4月『沈黙の少年』
少ししてヘリがゆっくりと降りていく。
周りを見渡すが、
山のふもとに来たようだ。
近くには緑がたくさん広がっている。
「…到着いたしました。ここからは
車でのご移動をお願いします。」
「分かった。行くぞ、。」
「あ、うん。」
ヘリに乗り込んでから
僕と翼は1度も話さずに降りた。
久々に声をかけられ、一瞬驚く。
先に降りた翼がヘリを
降りるのに手を添えてくれた。
「こちらに御座います。」
そのまま手をにぎられて
永田さんの用意した車に向かう。
いつもの通り、真っ黒でピカピカな車だ。
「…………どうぞ。」
永田さんが車を開けてくれて、
車に乗り込む。
乗ってからも手はずっと繋いでいた。
……………うーん。なんか翼、…変だな。
何かあったのかな。
二人だけで出かけることもたまにはあったけど
こうやってずっと手を繋いで車に乗るなんて
初めてだ。
「………………。」
ちらりと翼の顔を盗み見ると
少し寂しそうな横顔がうつった。
「翼。なんか、ちょっと寒いね。」
僕がそう言ってさりげなく翼に寄ると、
翼の手が僕の手から離れて
ゆっくりと僕の肩にまわる。
「…………ああ、そうだな。」
その手は少しして僕の頭を
優しく撫でた。
僕が翼に寄りかかると、
翼が少し笑った気がした。
連れていかれた場所は旅館だった。
今日はここに泊まる、と
勝手に宣言し、一人ではつまらないので
僕を誘った、というわけだ。
「お腹すいたね。」
「…ああ。すぐに用意させよう。永田。」
「はい、既に準備が整っております。」
「よし。」
肩を抱かれたまま旅館に入る。
翼のご機嫌は治ったらしい。
翼の鼻歌を聞きながら最上階の
スイートルームに向かった。