第2章 4月『沈黙の少年』
少しして、翼から電話がかかった。
はい、もしもしと言う暇もなく、
翼が問い詰める。
『、今何処だ?』
「……何処って、バカサイユだけど。」
『そうか。分かった。
今からそっちにヘリを飛ばすから乗れ。』
「へ?何処行くつもり?」
『…それは来てから直接言おう。』
「え?………あ、ちょっ……」
ガチャリ、と一方的に切られる。
全く、翼の奴…本当に勝手なんだから。
そう思いながら本を閉じて腰をあげる。
もし、ヘリに乗らないと
メガホンを使い大声で呼び出されそうだ。
もう夕暮れだし、近所迷惑だ。
できるだけ、静かにヘリに乗り込みたい。
バラバラバラ…と外で音がする。
もう来たのか。流石真壁財閥。
バカサイユから出ると、多くの生徒が
上を見上げている。
遠くからでも分かる、“MAKABE”の文字。
翼だ。
強風が他の生徒達を襲う中、
僕を呼ぶ声が聞こえる。
「おーーーーーい!草薙!!草薙弟!!」
ちらり、と見ると茶色いふわふわが舞っている
あ、真田先生だ。
「はぁ…はぁ………やっと見つけた………。
おい、なんで勝手にいなくなるんだよ!」
今までずっと僕の事を探していたのか…。
クラス会議はもうとっくに終わっているはずだ
今更何の用なのだ。
というか、それほど重要な事だろうか?
「ちゃんと坂下に早退するって
言っておきましたよ。」
「そんなこと!知ってるけど!!!」
ああ、知っているなら問題ないじゃないか。
「そうじゃなくて!……が、…………………で!!」
息荒く僕に叫ぶ声も、
だんだん近付いてくるヘリにかき消された。
もはや何を言ってるかすら分からない。
表情は、物凄く必死だから、
僕を説得しているようにも見える。
「…何言ってるか分かりません。」
とりあえず首を傾げて返事をしておく。
『様、どうぞこちらへ』
上からアナウンスが聞こえ、
目の前に縄ばしごが垂れ下がる。
さぁ、もう行かなくては。
「…先生、さようなら。また、明日。」
聞こえているかは分からない。
でも、一応挨拶はしておかなきゃと思って。
…案の定聞こえてなかったみたいで、
まだ口をパクパクさせていたけど、
僕は縄ばしごを上りヘリに合流した。