第5章 7月『ピアノとBBQ』
「……………………。」
明るい曲調のカノンは僕の心を跳ねさせる。
……しかし、僕の心は薄暗いままだ。
グレー色の心が無闇やたらに飛び跳ねて
転調し、創作のメロディが生まれる。
元はカノンのメロディなのに、
それは暗く弱く儚く死んでしまいそうだ。
「………………違う、こうじゃない。」
自分に嘘をつくように弾くのをやめた。
違う。僕が弾きたいのはそうじゃないんだ。
「……次の曲、弾こう。」
次に持ち出したのはヴィヴァルディの春の
ピアノアレンジ。これも有名な曲だ。
明るく、そして華やかに。
踊るようなメロディが僕を誘う。
しかし、誘われたのは天使ではなく
悪魔だった。
連れていかれた先は地獄。
また転調し、全く別の曲が生まれる。
先程の華やかさとは程遠い、
激しく生きる鬼のように………………っ
「……………だから!違う!!!」
また無理矢理演奏を止めた。
両手で鍵盤を叩きつける。
不協和音が部屋に響いた。
「違う、………違う!!
傷ついてなんか、ない。僕は…!!」
感情を吐き出しても、傷は消えない。
僕はまた次の曲の楽譜を取り出した。