第5章 7月『ピアノとBBQ』
怒りを隠しきれない男子は
僕に突っかかってきた。
ああ、早く終わらないかな。
僕がそのまま黙っていると、
男子はさらに僕に怒りをぶつけた。
「大体、なんなんだよ!いっつも、
成績トップって意味が分からない。
カンニングでもしてるんじゃないのか!?」
「…………。」
「それに、女子にちやほやされて、
調子に乗ってんじゃねーよ!!」
僕がいつ女子にちやほやされて
調子に乗ったのか教えて欲しい。
こっちは迷惑してるってのに。
「それに、お前のせいで俺は……ぐすっ」
一瞬僕から顔を背け鼻をすする。
ああ、なるほどね。
僕のせいで彼は失恋したわけか。
……でも、そんな事にはもう慣れてる。
ここまでは予想通りでいつものことだ。
「………っ………全部お前のせいだ!!」
B6は皆それなりに地位があるって言うか……
仕返しされる事が分かってるからか
下級生はほとんどB6に楯突くことは無い。
それに対し僕は2年生で一人だけ。
体も小さいし言いやすいのだろう。
……こうやって呼び出されて
言いたい事言われることは良くある。
「…………だから!お前は!!!」
そのたびにとりあえず
全部聞いて聞き流すことにしている。
今日もその一つだ。
僕が無反応なのが分かれば、
いつか飽きて辞めてくれるはずだ。
「それに…………!!」
「…………………。」
まだ終わらないのかな。
退屈しのぎに怒鳴り散らす男子生徒の
制服のボタンを数えた。
「それに…真田先生にも媚び売ってんだろ!」
「………………は?」
急に現実世界に戻される。
何を言ってんだ。
「……媚なんて売ってない。」
「じゃあなんなんだよ!
いっつも楽しそうに喋ってさ。
媚び売ってるようにしか思えないね!」
「…………。」
言い返せなかった。
僕は真田先生に媚を売っていたのだろうか。
確かに、真田先生とはよく話すようになったし
連絡先も教えた。
でも、媚を売っているつもりはなかった。
ただ、僕なんかに一生懸命だなって
思ってただけ、なのに。