第5章 7月『ピアノとBBQ』
「………………。」
もうすぐ夏休みが来る、ある日の放課後。
最近真田先生は成績を作るのに
忙しくて来れないらしい。
僕と朝夕、話すことも少なくなり
僕は一人でバカサイユに向かっていた。
「………別に、いいけど。」
元々一人で歩いていた道だ。
たった4ヶ月、一緒に歩いていただけの話。
いつも一緒ってわけじゃなかったし、
朝は兄さんがいるし、関係ない。
それよりも考えるべきは新学期からの事だ。
あれからあの3人は何かにつけて
僕に近づこうとしてくる。
『ねぇ、たまには…
教室でお昼ご飯食べない?』
『ここの問題、君は分かった?
……教えて欲しいなぁ……。』
『良かったら、一緒に帰らない?
あ、近くまででいいから、ね?』
………などなど。
今まで話しかけてすら来なかった癖に
席が近くなると分かった瞬間
僕に取り入ろうと近付いてくる。
それを見る周りの目も痛い。
断れば他の女子に酷い男だと言われ、
承諾すれば男子に女たらしだと噂される。
つまり、どっちに転がっても
僕の悪口に繋がるわけで。
「…………早く諦めてくんないかな。」
酷い男だと言われるならそれでもいい。
キッパリ断れば、そのうち諦めるだろう。
「………早く行って、兄さんに愚痴ろう。」
校舎を出てクラブ棟に入る裏道を通る。
バカサイユはもうすぐだ。
そう思っていると、突然後ろから
誰かに呼ばれた。
「おい、待てよ草薙。」
振り向くと…クラスメイトの男子達がいた。
皆、何やら怒っている様子だ。
僕の後ろに回り込み、数人の男子が僕を囲んだ
「………何の用?」
「………とぼけるな!」
先程声をかけた男子が僕に罵声を浴びせた。
……めんどくさいことになった。
もう放課後から大分時間が経ってるから
B6がここを通る可能性も低い。
かといって囲まれているため逃げられない。
僕はため息を飲み込み、不満を漏らした。
「……言わなきゃ分かんないんだけど。」
「……うるさい!全部お前のせいだ!」