第5章 7月『ピアノとBBQ』
「どうしたんだい?そんな、暗い顔して」
「………いや、その…今からでもいいんで、
テスト受け直すのって出来ないですか?」
「…………えっと、どういう事かな。」
「……成績下げられないかなって思って。」
僕がダメ元でそう言ってみるものの、
鳳先生は首を傾げる。
微笑みの貴公子には、僕の気持ちなんて
分からないよな。
なんてったって、女子に向かって
笑いかけられるんだから。
きっと僕とは住む世界が違うんだ。
そうに違いない。
その時、後ろから話し声が聞こえる。
「わ、私……夏休み明けから……
草薙君の隣の席よ!!どうしよう…
隣を見たら草薙君がいるなんて……
授業に集中出来ないじゃない!!」
「私なんか、隣見なくても、
斜め後ろからいつでも
草薙君が視界に見れるんだから!
しかもその角度…最高!!」
「私なんか、プリント回す時草薙君から
受け取るのよ!!きゃあああ!!!!」
運悪くも僕の周りに座るであろう3人の
会話だったみたいだ。
普段は僕に素っ気ない振りを見せるくせに、
やっぱり女子の内心は皆ああなんだな。
はぁあ、ClassAの女子は、
他よりはおしとやかで静かなのかなーって
思ってたけどただの勘違いだった。
「……………はぁー………。」
僕が深いため息をつくと鳳先生も
納得したように頷いた。
「はは、そういうことか。……成程ね。」
「………………。」
「でも、やっぱりテストの
受け直しなんて出来ないかな。
……君は満点だったし、尚更無理だ。」
「…………ですよね。」
分かってはいたけど、否定されると
余計に落ち込んでしまう。
鳳先生に苦笑いすると、
周りの女子から悲鳴が上がる。
「……はぁ。」
僕の重いため息は途切れることなく
口から漏れた。