第2章 4月『沈黙の少年』
「………痛い……。」
「ご、ごめんなさい!
急に出てきたから思わず…!」
結局、僕は思い切りビンタされてしまった。
頬を撫でるが、叩かれたところは
熱を帯びていてヒリヒリする。
付けている眼鏡を取って頬をさすった。
ああ、痛い。
「いや、急に出てきた僕が悪いので…。」
はぁ、とため息をつくと、
担任が僕を目をまんまるにして見つめる。
「……………。」
「…………な、何ですか?」
「…………あ、ううん!なんでもないの!
本当に!」
真っ赤な顔してブンブン手を振る先生。
大方兄さんと違ってかわいいなぁ〜とか
思ってたんだろう。
…可愛くて悪かったな!
くそ、僕にもっと身長があれば…。
「…そういえば、真田先生が探してたわよ。
クラス会議が…って。」
「…あぁ。出る必要ないから早退しました。」
頬を撫でながら、先程座っていた
ソファーに座って、眼鏡をかけ直した。
担任の眉間のシワがぐぐっと寄る。
「どうして?それに出る必要ないって…」
「そのまんまの意味。」
南先生の話を遮る。追求されるのは面倒だ。
「…………それより、『草薙君』じゃあ
兄さんと被って大変じゃないですか?」
無理矢理話を変えると、南先生は
考え込むように顎に手を当てる。
「確かにそうね……。2人とも草薙君だもの。
なんて言い分ければいいのかしら……。」
「僕だけ名前呼びにするのはどうです?」
僕がそう提案すると南先生は仰け反って
口をパクパクとする。
「え!?いや、草薙君を…名前で!?
そ、そんな……そんなの無理よ!」
「はぁ…そうですか?
でも、先生方も僕の事名前で呼んでいる方
多いですよ。」
僕と兄さんの境遇はクラスも成績も全く違う。
同じ名前で呼ぶと語弊が生じるから、と
僕の事を名前で呼んでいる人も多い。
真田先生みたいに『草薙弟』なんて
呼ぶのは珍しい方だ。
鳳先生や、衣笠先生、九影先生とかは
僕の事を名前で呼ぶ。
「そ……そうなの?他の先生方も呼んでるなら
私も呼ぼうかしら………。」