第2章 王国の王子
「助けて頂き、ありがとうこざいました!」
茂みから出てノインは、命の恩人の元に駆け寄り、深々と頭を下げた。
「怪我は無いか?」
「はい、大丈夫です」
顔を上げたノインは、騎乗の人を見て驚いた。
(この人、すごく高貴な人だ…)
馬は毛並みの綺麗な白馬、服も上等な布に見事な刺繍だし、本人も目鼻立ちが整っている。
くたびれた衣服に、泥のついた靴、ついでに顔も平々凡々な自分と比べてしまい、ノインは少し恥ずかしくなった。
相手が同い年くらいに見えるからこそ、余計にそう感じてしまうのだ。
(王国騎士の貴族様かな…)
「この辺りにまで蛮族が出るのか…」
ノインは、彼の呟きを聞いて、蛮族の遺体に目をやった。
「僕は…よくこの道を使いますけど、ここで蛮族に遭遇したのは初めてでした」
ここは王都も見えるし、東の国境とは離れてる…蛮族の侵入なんて滅多になかった。
では何故、ここに蛮族が居たのか。
「この前、数人の蛮族が…“使節団殺害”で、正使様の…御首を王都の門兵に放り投げたと聞きました。その時に侵入した蛮族の一人だと思います」
つまり、まだこの辺りに潜んでいる可能性がある…ノインは口にしなかったが、彼は察しただろう。
「…厄介だな」
そう言って彼は、東の方角を、その先に居るであろう蛮族を睨み付けた。
その双眼は、剣刃のように鋭く…直接向けられたわけではないのに、ノインは恐ろしく感じた。
「お前の名は?」
名前を訊かれ、ノインはハッとし、口を開いた。
「ノイン……ノインです」
「ノイン、この近くに村はないか?小屋でも良い」
「あります、僕の住んでる村が。これから戻る所で…あ、案内します!」
「それは助かる。こいつを休ませてやりたいからな」
白馬を撫でながら、彼は線が緩んだように微笑んだ。
先程までの双眼の鋭さはなく、寧ろ慈愛さえ感じる、優しい表情であった。