第11章 宿屋
「全く、なんて格好で寝てるんだよぃ」
風呂から上がると、目の前の光景に目を見張った。
畳の上で無防備に横になっている熾天使を見下ろす。
「さっき、一緒に居たいって言ってたか?
親父やエースじゃなく、俺と。
良いのかよぃ、熾天使」
期待するぞ。
畳の上に散らばったシャンパン色の髪を1束掬う。
その髪に口づければ、わずかに花の香りがした。
シャンプーの匂いか?
「好きだ」
何度言えば、お前に伝わる?
お前が俺を好いてくれる?
どのぐらい待てば良い。
分からねぇ。
分からねぇことだらけでイライラする。
そもそも俺はなぜこいつを好きになったんだ?
「俺を見ろよぃ.....ナツキ」
「ん...ぅ...」
「悪い、起こしたか?」
「大丈夫、お風呂上がったの?」
「あぁ」
まだ眠いのか、寝ぼけ眼で俺を見つめる熾天使。
こいつは、目覚めるタイミングが悪い。
船の時といい、今といい、どうも俺が名前を呼んでやると目が覚めるみてぇだよぃ。
そういうのばかりだと、勘違いしそうになるよぃ。
「マルコ、もっと撫でて」
「はいはい、分かったよぃ」
その綺麗な髪を梳く。
こいつはなんでこんなに人に撫でて貰うのが好きなんだ?