第5章 添い寝
しばらく本を読み耽っていると、後ろから息を飲む方が聞こえた。
「熾天使か?」
起こしてしまったか。
そう、一瞬不安になった。
「マルコ…」
「悪い、起こしちまったかよぃ」
「ううん。
マルコ…どこ?」
「俺はここに居るよぃ」
熾天使の声に振り返る。
「マルコ…」
ゆっくりと近づく熾天使。
様子がさっきまでと違う。
「どこにも行かないで…」
正面から、抱き着かれる。
首に手を回し、顔を埋める。
「俺はどこにも行かねェよぃ」
ポンポン、と小さく震える背中を撫でる。
「怖くなったのか?」
「…うん」
「大丈夫だよぃ。
俺はどこにも行かない。
約束だ」
「うん…!」
過去のことを思い出したのか、それとも家族という温もりを失うことを危惧してか。
不安に駆られたのだろう。
「マルコ…」
「ん?」
どんな状況であれ、好きな女が自分を頼ってくれるのは嬉しいものだ。
「一緒に寝てくれない…?」
「は?」
「ダメ…?」
「そりゃ熾天使、ダメに…」
ダメに決まってるだろ、そう言おうとした。
そう告げようと口を開いた。
だがそれは開いただけで、言おうとしただけで、俺の口から放たれることはなかった。
なぜなら、手元灯を受けて見える熾天使の表情が今にも壊れてしまいそうな顔をしていたからだ。
「…分かった。
一緒に寝てやるよぃ」
「本当…?
ありがとう!」