第10章 浅ましい
秋也は有の腕を掴んで引き上げた。
斜め45度の角度で、有の上半身が空に浮く。その体の奥めがけて、熱いものが叩きつけられた。
「あっ!んんっ!はげ、しっ!お、おく、まで、くるぅ!」
腕と腰しか支えのない有の小さな体は、秋也の動きに合わせて激しく上下した。
まるで子どもに振り回されるオモチャみたいだ。
秋也は恍惚の表情でその光景に見とれた。
いつも本心を見せず、周囲を信じず、何にも頼らなかった有。
その有が先ほど見せた、想像もつかなかった痴態。
狂ったように「秋也くんが好き」と腰をくねらせていた、あれが彼女の隠していた姿だったのだろう。
オレは有の全部を見た。
そう考えると、秋也は内蔵がギュッと締め付けられるくらい興奮を覚えたのだった。
有を支えたい、本音が聞ける立場になりたい、今まではただそんな風に思っていた。だがそれは独占欲と支配欲でもあったのだ、と秋也は今になって気がついた。
その証拠に自分は今、有をモノみたいに振り回すことで、言葉にできないほどの感動を覚えている。
自分でも気づいていなかった秋也の欲深い一面は、有によって暴かれ、満たされていっていた。
「有…」
秋也は彼女の名を呼び目を合わせた。
浅ましい有。浅ましいオレ。
おそろいじゃないか、有。なあ、嬉しいな。
秋也の目は、そう語りかけていた。
行為の強烈さが嘘のように、その目はとても優しく、柔らかく笑っていた。
有の目からぽろりと一筋涙がこぼれた。
嬉しいね。
そう言っているようだった。
有は彼女の腕にまわされた秋也の腕を強く握り返した。
私はこの人の前でなら、どれだけ浅ましくても、許されるんだ。
そしてこの人がどれだけ浅ましくても、私は許せる。
私たちは、おそろいだ。
かつてない安心感に包まれた気がして、有は秋也のくれる荒波のような官能に、身を任せて溺れていった。