第11章 ダーリン私に
17時過ぎ、映画を見終えた2人がシアターから出てきた。
「いいお話だったね。秋也くんはどう思った?」
「ああ、よかった。愛は偉大なんだなあ…」
ウンウンと感慨深い顔でうなずく秋也を見て、有はププと笑った。秋也は純愛ものに弱いのだ。
「有、オレにもダーリンとかハニーとか言ってくれ、あの映画みたいに」
「ふふ、バカっぽいからイヤ」
顔はにこやかに笑っているがハッキリと拒絶されたので、秋也も仕方なく黙った。
ブラブラといくらか服屋など見て回った後、2人はモールを出た。
冬は日が暮れるのが早い。それほど遅い時間でもないのに外は真っ暗だった。
けれど気温はたいして低くない。
「風がないからあまり寒くないな」
「そうだね、手袋しなくてもいいや」
有がひらひらと手を漂わせて歩く。
秋也は小さくて白いその手をジッと見て、己の手を伸ばした。
秋也の手と有の手が触れ合う。
白い手がピクリとわずかに動き、秋也から逃げていった。
「あっ、イルミネーションしてあるね、あそこ」
秋也に背を向けて、有はモールをとりまく木々のイルミネーションを指差した。
「ん…そうだな…」
有は横目で秋也の様子をうかがった。わかりやすくションボリとうなだれている。
はぁーっと、有はひとつため息をついた。
キョロキョロと周りを見渡す。通行人は近くにはいない。
秋也の傍に歩み寄ってつま先立ちになると、耳元にポソリと何事かささやきかけた。
秋也がパッと顔を上げる。
有はニイと笑みを向けた。
「よし早く行こう」
「ふふ」
街頭の照らす道の上。足並みをそろえて、有のマンションに向けて歩き出した。
”2人っきりのときだけ、ね。私の全部に触っていいいよ。ダーリン”
おわり