第1章 抑えた声
「で、どこ行くんだ?」
有の気遣いをわかっているのかいないのか、秋也はのんきな笑顔で尋ねた。
「うん、講義で使うノート買うだけ。すぐ終わるから、後は適当にブラブラしよう。あ、あと手袋も新しいの買おうかなあ。もう寒いもんね」
「そうか、わかった」
文房具、服、雑貨、日用品、アクセサリー…ザッとモールを見終わる頃には日も暮れていた。夕食を食べて行こうということになった。
「秋也くん、和食食べたいんでしょ」
「いつもオレに合わせてくれるから、今日は有の食べたいものでいいぞ」
「いいの。私そんなに食べないから、秋也くんの食べたい所行こう?」
「まだ腹減ってないのか?」
「そうじゃないけどね。あっ、ねえ、ここは?」
有は和食レストランを指さした。幸いにもそれほど混んでいない。
秋也はなおも「有の食べたいものでいいのに」と言ったが、結局そこに入ることになった。
「オレ、ホッケと五穀米の定食。有は?」
「豆腐サラダにしようかな」
秋也は目を丸くして有を見た。
それはただのサイドメニューだろ。
「やっぱり、腹減ってないのか?無理してオレに合わせることなかったんだぞ?」
眉間にシワを寄せる秋也に、有は笑顔で返した。
「そうじゃないよ。ふふ、ちょっとダイエットしてるだけ」
「ダイエット…?」
秋也はなおも首を傾げた。
「そんなことする必要ないだろ!有は今のままで十分キレイだぞ!」
「ちょっ…秋也くん声大きい!」
有は慌てて秋也を制した。何人かの客がこちらを見てクスクス笑った気がする。