第1章 抑えた声
翌日の昼すぎ、よく晴れていたが風は冷たかった。有はショッピングモールの入り口に立って秋也を待った。
「有!悪い待ったか?」
ひとりの男性が、大きく手を振りながら近づいてきた。
際立った長身、厚いコートの上からでもわかるスタイルのよさ。見るものを惹きつける立派な男前なのだが、ブンブンと手を振って駆け寄ってくる姿は、子どもみたいでもあった。
それが有の恋人、秋也だった。
有は恋人にニコニコと笑顔を向けた。
「ふふ、秋也くんてば。そんなにはしゃいでたら周りから変な目で見られちゃうよ?私はそれほど待ってないから、大丈夫」
「でも有、来るの早いな。まだ待ち合わせ時間まで15分以上あるぞ」
「そう言う秋也くんだって早く来てるんじゃない」
「ああ、有を待たせたくなかったんだよ。結局オレの方が後だったけどな、はは!」
そういって秋也はニカッと笑った。
秋也は時間にはきっちりとしているタイプだった。
だが残念なことに、気が短かかった。
一カ所でじっと待つということが苦手で、相手を待っている間に他所の店に入ってしまったり、ブラブラと辺りを歩き回ったり…。まともに待ち合わせ場所に立っていたことの方が少なかった。
その度に有は
「今どこ?」
「私がそっちに行くから動かないで待ってて!」
とやり取りをするハメになっていた。
諦めた有は、最近はあえて早めに来るようにしているのだ。