第6章 心と身体に
どれくらい時間が経っただろうか。
有はようやく泣き声も落ち着き、秋也の肩に顔を埋めたままグズグズと鼻をすすった。
「うっ…ごめ、ね。秋也ぐん…」
「謝らなくていい。有が泣いてくれてオレは嬉しいよ」
「そ、そうじゃ、なくで…は、はなみず…」
「んん?」
有は秋也の身体からパッと離れると、顔を隠したまま近くのティッシュボックスを掴み、急いで鼻をかんだ。
「しゃ、シャツに、鼻水…つけちゃって。濡らしちゃった…ごめんなさい」
秋也は有の顔が触れていた辺りを見た。言われてみると、涙と鼻水でグッショリと濡れている。
真っ赤な顔で詫びる有を、秋也はあたたかい気持ちで見つめた。
こんなに素直な顔の彼女は初めて見た気がしたのだ。
「いいさ、これくらい。どうせ2日前から着替えてないシャツ…」
と言いかけて、秋也は考えた。
一昨日は居酒屋帰りに有の家に押しかけ、そのまま寝た。昨日は漫画喫茶に泊まった。シャワーは浴びたが着替えなどもちろん無い。コンビニでパンツだけは買って穿き替えたが、もしかして今、自分の服はもの凄く臭うのではないだろうか…。
「有、もしかしてオレ、今、クサいかな…」
「えっ?あ…。クサいというか…汗のニオイはする、かもね。あ、でも、近づかないとわからないくらいだよ」
「そ、そうか…」
秋也が落ち込んだので、有も気まずくなってしまった。
「洗濯、して行く?乾燥機使えば数時間で乾くから」
「んっ?いや、でも何だか悪いな…」
「いいよ、それくらい。シャツが汚れちゃったの、私のせいでもあるし」
「だが」
「いいの。ホラ、私たち…恋人同士だよ?それくらいしてあげても、いいよね…」
有は少し顔を赤らめ、上目使いに秋也を見つめた。「恋人」という言葉を口にするのが、少し照れくさそうだった。秋也もつられて赤くなると、顔を崩して笑いながら「お言葉に甘える」と言った。