• テキストサイズ

ダーリン私に触れないで

第6章 心と身体に



 一度素直になってしまうと、罪の意識が次から次へと、堰を切ったように溢れてきた。

 かつて自分のために泣いてくれた人が他にいただろうか。これほど自分を優しく愛してくれた人が他にいただろうか。
 その優しい人に対して、自分がしてきたこととは何だったのだろうか。

 「彼は何も気付いてない」と思い込んでいた。
 「彼は自分のことなんか何も考えてくれてない」と思い込んでいた。

 気づいていないのは自分の方だった。自分のことしか考えていなかったから、自分1人だけが苦しいつもりだったのだ。

 自分の行動が彼を傷つけていたことなど知りもしないで、よい恋人が演じられているなんて思い込んでいた。


「秋也く…ごめ…、うっうっ…ごえんねええ………!」

 有が自分で自分の泣き声を聞くのは何年ぶりのことだろうか。

 弱いことはみっともないことだからと、ずっと泣かないようにしていた。そう、1人の時でさえ、声を出すのは怖かった。
 けれど有は今、溢れる声を止めることができなかった。


 秋也は、よしよし、大丈夫だ、すまん、と声をかけながら、有の頭をずっと撫でていた。

 彼女がようやく心を開いてくれた。
 はじめて彼女の心に触れることができた。

 それが秋也にもわかったのだろう。

/ 66ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp