第5章 つらくて、よかった
「有?」
黙ったままの有に、秋也が声をかける。有もハッと我に返った。
「ん…そこ、座って」
電気ケトルでお湯を沸かし、お茶を出す。
「有、昨日は、すまなかった…!」
秋也はテーブルに頭をつけんばかりの勢いで謝罪した。
「有を傷つけるつもりはなかった、バカにしたい訳じゃなかった」
必死で頭を下げ続ける。
「でも、笑われて…。私、傷ついたよ」
有はなるべく冷静さを保とうとした。
今でも腹は立っているし、さっさと別れて忘れてしまいたい。けれど別れた後で、秋也が自分に対して悪い噂を流したりしたら困る。なるべくおだやかに、前から関係に不安があったことを伝え、納得の上で別れることができればベストだ。
そう思った。
「秋也くん…気づいてないかもしれないけど、私、秋也くんとつき合っててつらい気持ちになったの、これが初めてじゃないよ。我慢してたこと、色々あるの」
「えっ…」
秋也は顔を上げて有を見つめる。
「だから、私」
「そうなのか…!よかった…!」
「はっ?」
有は目を見開いた。よかったとは何事か。
秋也も少し、しまった、という顔をした。