第5章 つらくて、よかった
翌日、有は大学に向かう準備をしていた。お気に入りのニットワンピースを頭からかぶる。
今日は3限目から。秋也も同じ講義だ。
有はスマホをジッと見つめた。秋也からその後連絡はない。
しつこく電話などされなくてよかったと思う一方、何か言ってきたらどうなんだ、という気もする。
自分は昨日一日中つらい気持ちで過ごしたというのに、秋也はあの性格だから、家でのうのうとしていたのではないか。
そう思うと腹が立った。
今日、秋也くんと別れよう。
そう決めてスマホを鞄にしまった。
別れたいと言ったら、秋也くんはどんな顔をするだろうか。悲しむだろうか。
その様子を想像すると、胃がズキンと痛む気がした。
なぜ痛いのだろう?
有は考えた。
秋也くんに未練があるから?本当の私は彼と別れたくないから?
…そんなことない。きっと、昨日からのストレスのせいだ。
そう自分に言い聞かせて、玄関のドアを開けた。
目の前に秋也が立っていた。