第4章 酔っぱらいのボタン
有は秋也の上着のボタンを数カ所外し、ズボンのベルトを抜き取って衣服をゆるめた。
万一嘔吐した時にノドを詰まらせないよう、クッションを頭の下に敷いて気道を確保する。
重い手足をヒイコラ動かして楽な姿勢をとらせ、しっかり毛布をかけた。ちょうど冷蔵庫にミネラルウォーターがあったので、夜中目覚めた時にでも飲めるよう、近くに置いてやる。
まあこれだけしてやれば、翌朝文句は言われないだろう。
いや、例え玄関先に放置したとしても、秋也は文句など言わないだろう。「夜中に勝手に来たオレが悪い」と言うだろう。
だが世の中秋也のようなお人よしばかりではない。「女なら世話くらいしろ」と言う人間もいる。
そういう最悪のパターンを想定して先回りしておくのが有の生き方だった。
もはやレポートを書く気にはなれない。クローゼットから新しいパジャマを取り出して着替えた。いつもならここでワクワクと取り出すラブグッズ入れの裁縫箱が、寂しげに自分を見ている気がした。
「ハァ〜、ホント迷惑。酔っぱらい」
クローゼットを閉じ、布団をかぶって電気を消した。