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ダーリン私に触れないで

第4章 酔っぱらいのボタン



 翌朝有が目を覚ますと、秋也はまだ寝ていた。

 彼が起きる前に身支度を整えなければ。

 大急ぎで寝巻からラフな普段着に着替え、髪を整え、うっすらと化粧をした。
 まだ彼にスッピンを晒したことはない。昨夜の姿を覚えられていなければ、の話だが。
 

「うう〜…ん」

 有が朝食の準備をしていると、ようやく秋也が目を覚ました。

「あ〜…有…?」
「おはよう秋也くん。昨日のこと覚えてる?」
 卵焼きのフライパンから目を離さずに、秋也に問いかける。

「ああ…すまん、押しかけてしまって。ソファに倒れた所までは覚えてる…が。なあ、オレ、その後…どうしたかな」

 少し歯切れが悪い。酒の勢いで有に何かしたのでは…と心配しているのだろう。

「どうもしないよ?そのままソファで寝ちゃった。体、痛くない?」
 なるべく何てことなさそうな風を装って有が答える。
 少しホッとしたように「そうか」と言う声が、背中越しに聞こえてきた。

「すまんな、有。すぐ帰るから、オレ…うわ、なんだこりゃ」
「どうしたの?」
「シャツのボタンが何個かちぎれかけてる。どこかに引っ掛けたかな。このままじゃマズいな…有、針と糸貸してくれるか」
「あ、うん、ちょっと待ってね。今卵焼き巻いてるの」
「わかった」

 そう言いながら秋也はフと寝室の方へ目をやった。クローゼットが開きっぱなしになっている。

 普段の有ならこんなことはしない。だが今朝は急いで支度をした。そのせいだった。
 そしてクローゼットからは、大きな裁縫箱が顔を出していた。

 なんだ、あそこにあるじゃないか。

 秋也は立ち上がり、寝室に入った。困ったことに、秋也はデリカシーとかいうものに少し欠けていた。
 だが手先は器用なのだ。ボタン付けくらいならさっさとできる。
 これ以上有に迷惑をかけてはいけないだろう、自分でできることは自分でやろう。そう思って、裁縫箱の蓋を開けた。

「ん…?」
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