第2章 異文化交流:前半戦
赤黒い瞳を見開きじっくり私を見る憂城は何処か驚いている様であった。
「どうかしたか?何か忘れ物か?」
「さっきのもう、一回」
「ん?」
「いってらっしゃいってもう一回言って?」
彼にとっては先の一言は馴染みの無いものだったらしいと予測するのは決して難しくはないだろう。一驚から立て直し頬をほんのり染め期待を含んだ眼差しを私に向ける。うずうずそわそわ、そんな効果音が見えてしまうほどだ。何だかんだで彼は人で心があって暖かさを求めている子供なのだと実感する。ならば年長者である私が答えなくては。
私は苦笑混じりに彼の白く柔らかな髪を撫でながら
「憂城、いってらっしゃい。出来るだけ怪我をせずに帰ってくるんだぞ?」
と声を掛けるのだった。彼は何度も頷いて出掛けていった。
「と言うことがあったんだ。ふっ、少し(かなり)変わった子(サイコパス)だが可愛いところあるじゃないかと感心してしまってな!感極まって君に電話した次第だ」
『へぇ、そんな事があったんだ』
憂城が出掛けて一晩が過ぎ早朝に私は懇意にしている友人に近状報告を兼ねて電話していた。電話越しからでも伝わるふんわりとした優しげな声の主の名は砂粒。平和を謳い、有言実行し何百の戦争を停戦に持ち込んだ猛者であり頭が上がらないほど私を助けてくれた善良なる戦士である。
『最近、貴方からの連絡が無かったから心配だったの。でも元気そうで何よりね』
「すまんな。色々と立て込んでしまって、今の所は何とか一応、恐らく、多分、無事な部類だ」
『凄く無事じゃなさそうなのは気のせいかな?』
「少々、厄介な子に目をつけられてしまった程度だ。問題は確かにあるが今のところ大丈夫だ」
『そう?なら良いのだけれど』
心配事が絶えないのは今更である。厄介事が今更増えても私の意思は変わらない。だがまぁ、出来ることなら彼女にこれ以上迷惑はかけたくはないのが正直な話だ。私のせいで彼女に何度、苦い思いをさせてしまったか。それでも根気よく私の友人をしてくれる強くしぶといオリハルコンの様な精神の持ち主の彼女に感謝しきれず恩も返しきれない。
そんなことを思いつつも今から相談がありその為に電話したわけだが。本当は迷惑はかけたくない。本当だぞ?
「砂粒、物は相談なのだが」
『厄介な子のことね』
「ああ、確かにその子の事なんだが」
