
第2章 異文化交流:前半戦
殺される場所は大抵、憂城が指定してくる。ホテルの一室だったり、民家だったり。今回は郊外に位置する山に囲まれた別荘地のログハウス。シーズン外れなのか人の気配はなく殺されるにはもってこいだ。
彼はこの関係を何時まで続ける気だろうか?
殺される回数が百桁越え寸前になっても成果はみられない。当然だ。生憎だが私は億を越える死因を実験し尽くされている。刺殺は勿論のこと銃殺、毒死、絞死、圧死、溺死、焼死、凍死、獄死、壊死、ショック死、きりがない。新しい死因なんて滅多に見つかるものではないだろう。特殊な異能の持ち主に出会わない限りは。
彼に何度も説明しているのだが聞く耳持ってくれないのが残念である。憂城は鉈をあらゆる角度から眺めうんうんと悩み始めた。次の殺し方でも思案しているのだろうか?もうそろそろ諦めて欲しいものだ。
「憂城、もう日が暮れてきそうだから私は帰らせてもらうよ。都合がついたらまた連絡してくれ」
何時も通り一殺されたので彼のセーフハウスから退去しようと支度するも珍しく制止の声が掛かった。
「今日はここで泊まりなよ。僕の用事、明日の夜には終わるから。君にはたいした用事なんか無いんだから良いよね」
「おい、決めつけは良くないぞ」
事実、私が暇人のニートで憂城からの連絡がない限り奔放生活だったとしてもだ。にしても珍しい誘いである。宿を探す手間と費用が省け私は助かるが。泊まれと申し出た本人は今から出掛けるようであった。
「君は今から出るのか?」
「うん、だから良い子で待っててね?」
「泊まるのは確定事項なんだな」
子供を相手にするかのように頭を撫で直ぐ玄関へ向う憂城。しかし、彼は少し前まで戦地から帰ってきたばかりだ。たしかこの一帯は内乱が頻発していたが彼はそれに参加する気か?オーバーワークではないだろうか。彼に並外れた身体能力が備わっていたとしても生きてる人間だ。少し心配になってしまう。余計なお世話かもしれないが。
「気を付けていってらっしゃい」
戸に手をかけ出ようとする彼に言えることなんて精々、こんなものだろう。私は彼から背を向け床に飛び散った黒ずんだ血液を掃除しようと
「ねぇ」
「うわおっ!」
勢い良く振り向くと憂城がいた。まだ出掛けてなかったのか!気配無く背後に立つのはやめて欲しいし近い!心臓に悪い奴だ。悪いも何も心臓は既に活動を停止してるがな!
