第5章 一歩進んで五歩下がる
声の先には憂城が佇んでいる。底冷えする声色を発したとは思えない純朴そうな表情で。あの、悪寒は気のせいだったのか?
「知り合いか?」
「、そう、なんだが」
断罪兄への応答がぎこちなくなってしまった。警鐘が止まらないのだ。一歩、一歩と憂城はこちらに歩み寄ってくる。何故だ?殺意も敵意も感じないでも彼の一歩が断頭台への一歩に感じるのは、気のせいなのか?
断罪兄は最初は警戒していたが憂城の無害そうな雰囲気に気が緩んでしまっている。彼は知らないのだ。憂城が戦士だと。憂城が間合いに入る。
「卯の戦士『異常に殺す』憂城」
「断罪兄!」
名乗りと同時に風切り音が私と断罪兄の真上を過ぎた。どう隠していたのか彼の獲物の大鉈が断罪兄の首があったであろう場所で止まっている。間一髪であった。私が憂城を知らなければ断罪兄共々、頭と胴体が切り離されるところであったのだ。
「野郎!チッ、行くぞ!」
断罪兄も戦士だ。呆気に取られたのはほんの一瞬、行動は迅速で彼は私を瞬時に脇に抱え走り出し文字通り“飛んだ”。断罪兄の異能であり技能『天の抑留』による上昇によって町の喧騒が憂城が瞬く間に遠退いていった。
「いや!次が来る!」
憂城は私達を逃がす気がないようであった。例え『天の抑留』が初見でも関係ないのだ。空へ飛ぶのなら打ち落とせば良い。二つの脅威が左右から迫る。彼は二本の鉈をブーメランのように投擲したのだ。
同時に迫る凶器に断罪兄は更なる上昇で回避する。が
「ウサギは跳ぶんだよ?」
驚くべき脚力で憂城はビルの壁を走り抜け空へ跳び断罪兄が避けた凶器を瞬時に掴んで
「すまん!」
「おい!」
振り下ろす瞬間、私は断罪兄から離れ憂城へ飛び込む。憂城はパチパチと目を瞬かせる。本当にすまん憂城。私は彼を踏み台にする要領で蹴落とし空に留まる断罪兄に抱きついた。
羽か無い憂城は空の領域から堕ちていく。私に手を伸ばしながら。
「、」
私の名前を呼んで。