第4章 和平交渉
彼は死体作り『ネクロマンチスト』と言う特殊技能を持っているのは当然知っている。死体なら彼の友達。つまり眷属なのだが。
「を見つけたのは僕のお友達なんだ」
私を見つけたのは彼の眷属であるらしかった。だが人間ではない。例えば空を飛ぶ鳥、地を走る野良の犬や猫、どこにでも溢れている虫。彼もしくは彼の眷属が殺した事実があればそれだけで眷属になる。更には彼はそれらの視覚や聴覚を共有できるのだ。何とも恐るべき多様性、そりゃ見つかるわけだ。生きた人間や機械など気を配っても自然の生物の死体まで気を配りきれない。
「君が私を見つけたトリックはわかったが」
「うん?」
「そろそろ私を離してくれないだろうか?」
「…」
彼は頭を左右に振る。無言の抱擁から話せるまで回復したが彼が私を離す気配はない。現在は正面から脱したものの背後から抱きすくめられている状態であった。憂城は気怠げに私の首に頭を埋める。努突直伝漢方薬を内服したにも関わらず彼の疲労は相当のものであるらしい。一体どれだけの視界を頼ったか知らないが数多の視覚情報が彼の脳に相当な負荷を与えたのは見るからに明らかだった。
「憂城、横になれ私がいてはゆっくり眠れないだろう」
「嫌だ。離したく、ない。または僕を置いていくんだよ。酷い、酷い。君はなんて酷い奴なんだ」
ギリギリと力がまた強まるが私は彼の物言いに眉根を寄せた。此方にも色々と言い分があるが疲弊した状態の彼に追い討ちは控えたい。
「僕はただ君をお友達にしたいだけなのに、君と一緒にいたいだけなのに、なのに君は拒絶ばかり」
「拒絶はしとらんだろう!」
こればっかりは意義有りだ!どこをどう取って拒絶判定なんだ!?いや、逃げたかもしれんがそれでも私は結構、無抵抗だっただろうに!
「何度も何度も何度も言っていることだが私は死んでるんだ!今現在もだ!鎖骨が割れて肋骨が折れて肺に刺さっていて生きている訳が無かろうが!ほら!息もしていないぞ!死んでいる以上、君の制約には引っ掛からないだろうし。君の“お友達”にはなれない!」
憂城は震え力が緩まる。私は彼の抱き締めていた腕を外し正面に向き直った。