第4章 和平交渉
『貴方が特定の誰かと親好を深めようとするのは初めてのことだから』
砂粒の言葉は刺さる物がある。君は良く人を見ているよ。だが砂粒、君に言うつもりはないが親好を深めようとしたのは始めてではない。君の前では確かに始めてではあるが。
時代は変わる。時代が変われば人の認識は確変する。常識、教養、情勢、etc。だが変わらな無いモノがある。死だ。死の概念は変わりようがない。死して尚、動く私を例外として。
まぁ、不安だ。誰かと親しくなるのは不安でしかない。私は君達を何れか置いて行き君達は私を置いて逝くのだから。何時か君達は風化してしまう。私が友人と思っていた彼等のように。友情とは本当に難しい。だってどれだけ積み上げた所で忘れてしまうのだから。
死が恐ろしいとは思わない。
恐れるとしたら忘却だろう。
宿の窓から断罪兄が帰っていく姿を確認する。彼は数度こちらの階に顔を向けを繰り返し踵を返していった。彼のらしくない紳士的な態度も憂城の暴挙も砂粒の親切もいつか忘れる。
「懲りないな」
だがそれでも私は彼等と関われずにはいられないのだ。特に憂城。不思議と彼とは。縁を断ち切りたいと思えない。何度、自問自答したが返答はそう決めたからと言う短絡的な理由だけ。
「そろそろ、頃合いか」
思い出が風化するなら感情もまた然り。彼の暴挙を永遠に許す気は無いが断罪兄弟に会ったのが思わぬ緩和材になったのかもしれない。燃え滾る程の怒りは鎮火していっているようであった。
「だが連絡するのは明日以降か」
時間は零時を回ろうとしている。現在、憂城がどこにいるか知らないが、時差によっては今が。いや、やはり場所を確認して後日が良いだろう。そして荷物を纏めとく事を忘れない。断罪兄弟が滞在している時点で私には無くともこの町で何か起こるのは確定なので断罪兄には先程、
「お前、この町に何時まで居るんだ?」
「暫くは滞在するつもりだ」
「そ、そうか」
と嘘を言ってしまったが。すまんな。君の日頃の行いという事で勘弁して欲しい。厄介事は出きるだけ避けたいのでね。
ゴン、
せっせと片付けているとドアに何か大きな物がぶつかる音で手が止まる。まっまさか断罪兄が察知して、おっかなびっくりとドアに向かい取っ手を引く。
「ど、どうかしたか?」
そこにいる人物に目を見開く
「…憂城」
全身ずぶ濡れの憂城だった。
