第4章 和平交渉
「おっせーんだよ」
断罪弟がふてぶてしく文句を垂れながら料理が置かれたテーブルに着く。断罪兄は対照的に緊張した面持ちであった。
「てか、これだけかよ」
「これでも頑張ったんだ」
テーブルにはシチューが盛られた皿が二つ。
「シチュー作るのに時間かけすぎだろ…」
だから初心者だと何度、言えば。と苦言を呈してそうになるが彼には通じなさそうなのでグッと堪える。断罪弟は呆れ混じりにスプーンを手に取ると何か思い付いたのかニヤリと嗤い断罪兄を手で制し
「おい、」
「兄貴をたてるのが弟の俺の役目だからな。俺が毒味役を買ってやるってんだぜ?後で金払えよ」
得意気に意気揚々と恩着せがましく断罪弟は言う。断罪兄は眉間に皺を寄せ胡乱げに弟を睨んだ。私はどちらからでもかまわんのだが。
「見た目も匂いも悪くねぇ、さてさてお味はどうかな?」
芝居がかった仕草と口調でシチューを掬って口の中に入れる。
「どうだ?」
始めての料理、相手が相手だが決して驕らず気を抜かず誠心誠意を籠めた一品である。緊迫した食卓、ごくりと断罪弟の感想を待っているとその変化は起きた。
最初は赤く、そして青く、紫へ変色した後に真っ白と顔色を変え断罪弟は壮大に椅子ごと倒れたのである。
白目を向き泡を吹いて痙攣している断罪弟。沈黙が場を征す。
「えーと、その。なんと言うか。うん、正直、すまんかった」
余りの気まずさに謝罪した後、
「た、剛保ぅうーーーー!!!!」
悲痛な断罪兄の叫びがホテル上階に木霊したのであった。