第4章 和平交渉
「いや、意外と平和か?」
「おー、何か言ったかー?」
「何でもない。ただの独り言だ」
この町で最高峰と呼ばれるホテルの最上階の一室に私は招かれていた。強制連行とも呼べるが。最初はまたどこかのマフィアのボスだか研究機関のお偉いさんだかが待ち構えていると踏んだが純粋に彼等が拠点にしている高級ホテルのようであった。
「俺達がカモネギちゃんの腕前を見てやるよ」
そう意地の悪そうな微笑で宣う断罪弟にホテルのスイートルームに設備されているシステムキッチンに押し込められたのである。時折、リビングでこちらを伺う双子。断罪兄は狐疑的な表情で弟は愉快そうな顔でこそこそ話し合ったり喧嘩したりと忙しない。まさか売る算段を。ありえる。
気が気ではないが物事をプラスに考えるのはお手のものでどうせ使われるのならば私も利用させてもらうとしよう。味見役は欲しかったのは事実なのであるし。
慣れない手つきで野菜の皮を剥いていく。時には指を切り、手首を切り、手の平を切りと刃物類は使うより使われてきたので悪戦苦闘は強いられながらも着々と準備を進めていく。
「まだできねぇーのかよー」
断罪弟の野次が飛んだ。
「料理初心者にスピードを求めないでもらいたい」
「こっちは何も食ってねぇんだから早くしろよな」
何と驕傲な。しかし、待たせているのも事実。私は空腹を知らないが苦しいと言うのは知っている。材料の下準備も整い後は鍋に投入し煮込むだけだった。
「もうじき完成だ。後少し待ってくれ」
断罪弟は此方を見ずに手をヒラヒラと振った。そんな弟を何故か断罪兄は恨めしそうに睨んでいるのであった。仲良く二人でいる姿しか記憶にないが実はそこまで仲が良くないのかもしれない。だが喧嘩をするほど仲が良いと言う格言もあるが。よくわからん兄弟だな。鍋の底が焦げないように中身をかき混ぜながらここが現実空間か疑念を抱きそうになる。
あの二人と過ごして穏やかなど
や、やはり罠か?