第3章 異文化交流:後半戦
走り続け削れた部分に肉が戻り走り続け腕が本来の形に戻り走り続ける。服以外は満全だが油断は禁物であった。気配は感じないが危機感は去らない。私の危機感は気のせいではない証明として時折、背後から発砲音が鳴り地面と木を削る。
長い逃亡生活、そこから培われたものがある。気配が読めるなど大層な芸当ではなく。こればかりは感覚だ。追う者特有の優位性から生じる傲慢な息遣い。しかし、今回の相手からは何も感じない。
まるで機械人形に追われているようだな。
長年存在していてこんな事は始めてだ。嗚呼、憂城に出会ってから始めてばかり経験している。全くもって世の中、何があるかわかったものではない。空に散らばる星で方角を計り整備されていない山を駆け上がる。走り続けて大分経つが、
通り過ぎた木の一部分が欠ける。
「くそっ、離せない」
死人故の特技、永続的全力疾走を嘲笑うかように相手はピッタリ私に着いてきていた。しかも発砲音が各所からとなれば複数は存在することになる。あり得ないぞ。生きた人間なら体力が如何にあろうと疲労がある。追っ手から疲労の予兆は見られなかった。
だからか解せない。これ程の体力を持ちながら何故、私を捕まえない。所詮、私の身体能力など平均値を少し上回る程度だ。初手で発砲せずに突入すれば容易く捕縛できた。憂城相手と想定してだったとしてもお粗末すぎる。
ログハウスから追い出すためか?
それに先程から相手の撃ってくるタイミングがおかしい。誘導されているかのようだ。あえて大きく右に反れて走ってみる。行く先を発砲され木が削れた。同じように左にまた同じく。やはり誘導されている。知らず知らずに私は追い込み漁の魚の状態になっていたらしい。
結局、弾丸の嵐をやり過ごすことに集中してしまい相手の姿を視認できなかったが。誰なんだ、全く。まさかあそこの組織がまた?いや、あっちだったか?身に覚えが有りすぎてどれだかわからんぞ。しかし、私をどこに誘い込もうとしているのやら。確かこの方角は反乱軍の拠点近くだったはず。
樹林の闇に薄らと光が射す。辿り着いたのは木々に囲まれながらも開けた場所であった。開けた草原の中央に一人の人間。雲が晴れ満月の月光が相手を照らし姿を露にする。
「憂城、」
そこにはにんまりと狂暴な笑顔を張り付けた彼が悠然と立っていた。
