第13章 有栖と白ウサギ
『…はい、ありがとうございます』
「うん、エルとはまた違う、有栖の笑顔もとても綺麗だね」
『えっ…』
(見た目は同じはずだけど、何か違うのか…?)
「今、見た目は同じはずだと思ったね?
確かに容姿はエルだけど、表情は全く違うよ。
とても素敵だ」
『…っ!』
当たり前のように飛び出す口説き文句に慣れず、熱くなった頬を隠そうと下を向いていると、あの声と共に彼らが戻ってきた。
「…おい、まだそんなぽんこつを口説いてるのか
お前も大概趣味が悪いぞ脳内お花畑野郎」
「ぽんこつ、だなんて、女性に対してそんなことを言ってはいけないよ、オリヴァー。」
「お前のようになれと言うのなら俺は今すぐここで死ぬ。
…おいお前、間違っても泣きながらこの家に来るんじゃないぞ、煩くてたまらんからな」
『え…ああ……はい…』
「全く、素直じゃないんだから。
今の話、一通り 聞いていたんだろう?
大変だろうけど、頑張れよって素直に言えば良いのに」
「まあ、聞いていたが…俺はそんなこと言おうとも思ってない
遂にお前の頭は正常な思考回路さえ失ったか」
「ああ、ひどいなあ
もう少し優しくしてくれたっていいじゃないか」
「いつでもどこでも発情するようなエロウサギにそんなことをする義理はない」
(これは…見たかった光景だな…少し、嬉しい)
ブランさんの言葉のおかげなのか、自分の目でそのやり取りを見られることに密かに感動できるほどの余裕が生まれていた。その時、気が付いた。
(ああ、僕は余裕がなかったのか)
これまでの想像を絶するような経験は、あまりに濃くて、余裕を失わされていたということを、僕は他人事のように素直に受け入れていた。
しばらく続いた言い合いも終わり、フェンリルが口を開く。
「…んじゃ、帰るか」
『ああ、そうだね』
「気を付けるんだよ」
『…ブランさん、ありがとうございました』
深くお辞儀をして顔を上げると、ブランさんは何も言わずに頷き、微笑んでくれた。