第12章 麻里と有栖
有栖の部屋のベランダから、真上に登る欠け始めた月を見上げながら有栖のことを思い出していた。
(今頃、有栖はクレイドルでイケメン達の逆ハーレム…か…)
正直、少しだけ羨ましいと思ったことは認める。けれど、それ以上に有栖のことが心配で仕方がなかった。
エルちゃんが能力を使えなかったということは、きっと有栖が使えているのだろう。
知らない…いや、知っているけど、慣れない環境で、画面の中で見た人達に囲まれて、その上 能力も使えるとなると、いくら彼女でも混乱するはず。
入れ替わったことが明らかになったとしても、あの有栖のことだから、すぐに雰囲気に馴染むことはできると思う。でも、もし能力のことがバレたら…?
こんなにも誰かの隣にいられないことがもどかしいと感じたことはなかった。
振り向いてベッドで寝息をたてている有栖…エルちゃんを見る。
『…これからどうしよ…』
入れ替わってから2日が経ち、明日は月曜日。
取り敢えず、仕事には行かなくちゃいけない。でも、何も分からないエルちゃんに仕事をさせることはできない。
つまり、有栖は1か月以上も休むことになる。
病気、という嘘を吐いても、バレるのは時間の問題だから、できればやめておきたい。両親もいない、親戚とも縁を切っている有栖が身内の事情で休むことはありえない。
1か月以上の説明のつかない欠勤。その後どうなるかは 火を見るより明らかだ。
仕事が別でも有栖との関係を保つことはできるから、そこは気にしていない。
それよりも、この就職難問題を抱える現代の日本で再就職をすることがどれだけ厳しいことか。
『なんで…こんなことに……、』
早く、そう思うのに、そうはいかない。
どうしようもない焦燥感を持て余していた。
考えても考えても、結局良い方法は思い浮かばず、気付くと時計の針は1時を指していた。
『まずは、この子をちゃんとイギリスに連れて行かなきゃ…だよね…』
大きく息を吐いて、冷めきったココアを喉の奥に流し込んだ。