第10章 有栖と黒のQ
___心の準備ができないまま、無常にも太陽は頂点に到達する。
美味しかったであろうサンドイッチをご馳走になった後、木々の間を飛んで遊ぶ小鳥をぼーっと眺めていると、遂に その時を知らせる軽快な足音が聴こえてきた。
「約束通り、アリスを迎えに来た」
玄関扉を開けたシリウスさんの声を聞き、覚悟を決めて立ち上がり歩き出す。
そして、俯きそうになる感情をぐっと抑え込んで、しっかりとシリウスさんに向き合った。
『……ご迷惑をお掛けしてすみませんでした』
そう言って頭を下げる。
「顔上げな」
言われた通り、恐る恐る顔を上げると、画面の向こうでは見たことのないような 柔らかい表情をしたシリウスさんと目が合った。
「ハールから、事情と……能力のことは聞いた」
『…』
ちらりとハールさんを見ると、
「勝手に話してしまってすまない
ただ、そいつは信頼できる奴だし、近くに能力のことを知っている人がいた方が良いと判断した」
『…いえ、いいんです
逆に、気遣ってくださってありがとうございます』
複雑な気持ちをそのまま表したように ぎこちなく微笑んでお礼を言うと、ハールさんは少しだけ口角を上げ、そのまま 読みかけだったらしい本を開いた。
そして、再びシリウスさんへと視線を戻す。
「…ま、普通なら起こり得ない状況だ、混乱するのも無理はない。
だから、そんなに苦しそうな顔しなくていい」
頭を撫でてくれた大きな手が温かくて、思わず僕は俯いた。
ログハウスの床にはいくつもの丸い染みがついて、しばらく乾くことはなかった。