第4章 笹色(ささいろ)
「ブンブンブン~ 羽二枚~
ハエ アブ カ~だよ ハエ アブ カ~だよ
ブンブンブン~ 羽二枚~~~」
「くくっ、なんだ? 蜂出てこねえじゃねえか」
「蜂はこの後2番で出てくるの!」
「ぷ……そか。今度2番教えてくれよ」
「うん!」
あながえない程の異常な睡魔に身を任せ、
再び瞼を開ければ夜空を焦がすようにたき火が天に向かい燃え上がっていた。
「目え覚めたか?」
「いつの間にか寝ちゃってた」
「腹減っただろ? 食えるか?」
上半身を抱き起こせば目の前には細枝に刺された5匹のヤマメがジリジリと炎に焼かれ香ばしい匂いが辺りに漂っている。
「こんなにいっぱい……」
「たまたまだ」
「幸村って本当に器用で何でもできて羨ましい」
「バカなこと言ってねえで、食え」
(自分だってお腹空いてる筈なのに……)
そんな優しさを持つ彼が心から愛しく、出会った頃のぶっきらぼうな幸村と、今の過剰なほど心配性の幸村のあまりのギャップに思わず笑いがこみあがる。
「……ふふ」
「ん?」
「幸村と安土で初めて会った頃の事思い出してた」
「ああ、あん時は参った」
「え?」
「行商っつってもよ、品物が女物の小物だぞ?
俺に出来る訳ねえだろ」
「ぷ。ほんとだね」
「どっから仕入れてくんのか知らねえけど、信玄様にも困ったもんだ」
「え? あれって信玄様が用意してたの!?」
「ああ……」
そう言われると、確かに並んでた小物は女性が喜ぶような可愛い細工が施されたものばかりだった。
「さすが信玄様」
「あ?」
「ん?」
「何誉めてんだよ」
「ん?」
「俺を誉めろ」
「ふふ」
以前、道三様が耳打ちして教えてくれた言葉を思い出す。
「幸村様はヤキモチをやいておられます」
私は幸村のこういう所が好き。
何よりも大事にしてくれる事が堪らなく嬉しい。
「お腹空いた!」
「おう。吐くまで食え。吐いたら又食え」
「ぷっ……こんなに美味しそうなのに、吐いたらもったいないよ? 一緒に食べよ?」
「先食えよ」
「やだ」
「っとしょうがねえな。ガキかよ」
「 あ、幸村! その大きいの頂戴!」
「ああ、お前にやるよ」