第7章 天色(あまいろ)と亜麻色(あまいろ)
以前、道三様がおっしゃった言葉が頭をよぎる。
【己の命を捨てるより生かす道を選ぶ】
それを今、目の前で現実として聞いている。
戦がなくなる。
そして誰も傷つかない。
私は嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。
知っている歴史は大切な人たちが消えてなくなるけど、今ここにある歴史は大切な人たちが争わず共にあり続けることができる。
あまりの嬉しさに感情が高ぶり、両手で顔を覆うと、思わずしゃがみこんでしまった。
「ろき様?」
頭上から優しい声が降り注ぐ。
「胸が一杯で……力抜けちゃいました」
「愛しいものを守りたいと思う気持ちは、いかなる世も同じにござります。
ろき様、ほんにようござりましたな」
道三様はそういうとしゃがむ私の背中を優しく擦ってくださった。
「自分に何ができるんだろうって、考えても考えても……答えがわからなかったんです」
座り込んだまま足元の地面を見つめ、心の奥底にあった葛藤を……自分の不甲斐なさを……誰に言うともなくおもむろにに呟いた。
「【あかめがしわ】覚えておいでか?」
「はい」
「あなた様が変えたのですよ?鋼のような武将の魂(みたま)を。かくいう私もそのひとり」
「道三様?」
「あなた様の心に触れた者は皆、命の尊さを目の当たりにし自我に目覚める。このような血ぬられた戦乱の世、早々に終わらせねばの。ろき様」
その言葉に顔を上げると、目の前には優しく微笑む道三様と床机台に腰かけ見守るように私を見つめる信玄様がいた。
今まさに、
明るい未来が光が降りてきた瞬間だった。