第4章 笹色(ささいろ)
「いい型してんなあ~。尺物んだこれ」
「しゃくもん?」
「【しゃーくーもーの】! デカいってことだ。よしっ。次いくぞ!」
幸村はヤマメの口から手早く毛ばりを引き抜き、びくに入れると湖面に向かい慣れた手つきでぴゅんっと竿を振った。
その瞬間、さっき感じた不安な感情が一気にに湧き上がり、身体が軋むほどの酔いがぐるぐると体内を駆け巡る。
(………あ、まただ)
胃の辺りを締める帯の上に手を押し付け、何度もつばを飲み込むが、じわじわと這い上がる吐き気に我慢できず、体を前へのめるように笹藪へ駆け込んだ。
「っっっっう……うえっっっっっっ…っっっうく」
次から次に襲い来る悪心にえづきが止まらず、私は崩れるようにその場にしゃがみ込む。
ーーーもしかしてこれって……
つわり?
やけにムカムカする胃と、普段の吐き気とは明らかに違うしつこいまでに鈍く続く気持ち悪さ。
経験のない自分でもさすがにわかった。