第1章 炎色(ほのおいろ)
段々畑よりもさらに上、どっしりとそびえ立つ春日山城本丸を目指し、幸村は蛇行する急勾配を愛馬にまたがり駆け上がる。
颯爽と走る中、一陣の風が吹き抜けると、夕暮れと同じ色をしたもみじが、まるで雨が降るかのようにパラパラと目の前で舞い踊る。
あまりの美しさに手綱を握る手を強く引いた。
ブルルルルルッ
いななく真田栗毛の鼻面をやさしく撫でると、落ち葉に埋もれた地面に飛び降りた。
手綱を片手に足元から視線を移せば、視界いっぱいに広がる紅の世界。
「すげえ……」
見惚れるほどの絶景にゴクリと息をのみ、呆けたように時を忘れ立ち尽くす。
瞬きもせず眺めていると、どこからともなく漂う甘い匂いが幸村の鼻を掠めた。
ーーどっから匂ってきてんだ?
辺りをぐるりと見回し香りを追う視線の先には、果実をたわわに実らせる一本の大きな柿の木。
ーーあいつ、食いもんには目がねーからな。
持ち帰ったときのろきの喜ぶ顔が目に浮かび、考えるより先に逞しい腕は木に登るため、枝を掴んでいた。
ドスン ドスン ドスン
リズミカルに床を蹴破る勢いの足音が、ろきのいる自室に向かい次第に大きく廊下に響く。
(あ!幸村帰ってきた!)
縫い物の手を止め、部屋の入口に目をやれば、襖が開いた先に優しい笑顔を纏う幸村が立っていた。
「今戻った」
「おかえり! 幸村」
「おう。土産」
「ありがと~」
ぶっきらぼうに差し出された風呂敷包を両手で受け取る。
幸村がたまにこうして持ち帰って来てくれるお土産を私は楽しみにしていた。
それは買ったものではなく、出掛けた先で自ら採ってきてくれた果物だったり野菜だったりする。
気持ちがたっぷりこもったお土産の中身を早く見たくて、その場に座り込み膝にのせると結び目をほどいた。