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イケメン戦国 〜いにしへよりの物語〜

第1章 炎色(ほのおいろ)


開いた風呂敷から顔を覗かせたのは真っ赤に熟れた美味しそうな甘柿だった。

「わっ、おいしそう!」

「だろ?」

「うん! 幸村、いつもありがと。
夕餉の後にみんなで食べよう。
あれ? そう言えば、信玄様は?」

今朝早く幸村と一緒に城を出た信玄様がいないことを怪訝に思い、広げた風呂敷を包み直しながら尋ねた。

「村の見回り途中で発作を起こしちまって……」

「え! それで!?  それで信玄様は大丈夫なの!?」

「ああ。道三に手当してもらって今は落ち着いてる」

「よかった……」

「謙信様に報告しないとな」


ホッと胸を撫でおろす私の手首をガッシリ掴んだ幸村は広間へと続く廊下を早足で進んだ。

風呂敷を手に持っていた私は幸村に声をかける。

「あ、待って」

「あ?」

「この柿、厨に置いてくる」

「それもそうだな」

「幸村は先行ってて」

「俺も行く」

胸に抱える風呂敷包みを私の腕からポイっと取り上げると、踵を返し厨へと向かう。

「ふふっ」

「なんだ?」

「ううん」

相変わらずぶっきらぼうで不器用だけど、ふとした瞬間に見せるさりげない優しさに幸せを感じ頬が緩む。

厨に入ると竹ザルに柿を移し棚に置き、風呂敷を急いで懐に入れると入口で待つ幸村の元へ駆けていく。


長い廊下の先を進み、広間の襖の引手に幸村が手をかけるのと同時に、背後から聞こえる足音に気づき振り返ると、小さなお重をお盆にのせた佐助君がこちらに向かって歩いて来た。


「佐助君」

「ろきさん、ちょうど良かった。夕餉の時間だからそろそろ呼びに行こうと思ってたんだ。幸村、お疲れっ……て、あれ? 信玄様は?」

「ああ……そのことで話がある」


三人連れ立ち部屋に入ると、凄みすら感じる不機嫌な声が飛んできた。


「遅い!」


上座にはすでに盃を手にした謙信様が座っており、佐助君はその姿に憶することなく持ってきた小さなお重を謙信様の前に置いた。

蓋を開き中を覗き込んだ謙信様の目が一瞬見開かれたかと思うと、満足そうな笑みを浮かべる。




「幸村、ろきさん、とりあえず座ろう」


佐助君の言葉を合図に、私達は信玄様の様子を幸村から聞くため、謙信様の前に弧を描くよう座る。
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