第3章 紺鼠(こんねず)
道三様に連れられ、庭先に出た私は、ザルに干されたあかめがしわの葉を一枚手にとった。
よく見えるように顔に近づけ表と裏を何度もひっくり返してじっと見る。
(どうして緑の葉なのに染めたら灰色になるんだろう)
不思議に思い眺めていると、隣で腰をかがめ同じように見ていた道三様のクスッと笑う声が聞こえた。
「不思議でございましまょう?」
いつもの声音なのに、その一言がやけに耳に強く響いてハッと我にかえる。
「す、すみませんッ! 私考え事しだすと時間はいつの間にか経ってるし、気付かない事多くて……」
またやってしまったと申し訳ない気持ちで一杯になり、思いっきり頭をさげた。
「そのように夢中で考え事をされているろき様の姿は、いつまで見ておりましても全く見飽きませぬよ。
謝ることなど皆無。
興味があるからこそ、考えるのでございましょう。
そのような時、誰もが夢中になのは至極当然のことにござります。
ろき様。
塩が辛いと言う事も、砂糖が甘いと言う事も誰もが知っておりまする。
しかし、塩も砂糖も舐めたことが無ければ、その辛さや甘さの説明をいくら聞いたとて、実際の味などわかりませぬ。
なぜ、緑が灰色になるのか。
やってみねばわからぬ……こういうことにござりましょう?
ささ。
考えても答えが出ぬ時は、やってみるのが一番。
丁度、包帯用のサラシが余っております故、染めた後手ぬぐいに仕立ててはいかがですかな?」
「はい!」
はにかむように笑う道三様に、私は即答した。