第3章 紺鼠(こんねず)
「あ!?
謙信!
お前なんでそのこと知ってるんだ!」
想定外の答えに、勢い余って膝で碁盤をひっくり返した信玄は、飛びつかんばかりに謙信の肩に掴みかかりゆさゆさと揺らす。
「俺は毘沙門天だ。
この眼は見通しが良いのだ。
ろきに持たせた梅干しも役に立ったであろう?」
「あ!?
あん!?
梅干し?」
先日、正気を失った幸村に梅干しを食わせた顛末を思い出した。
「ああ……そりゃ役には立ったが」
「幸村には、しっかりして貰わねばな。
男気だけではろきと子を守ってはゆけぬ。
お前に似て、詰めが甘すぎるのだ。
どうせろきが懐妊したと聞いて、驚きの余り意識が飛んだのであろう。
フッ……
やはり俺がいなくてはな」