第3章 紺鼠(こんねず)
どこか遠くを見つめるように、一旦言葉を切った謙信は
目を細めると、緩やかに微笑んだ。
目尻に笑い皺が沢山できたその柔和な笑顔に、
信玄は抜き打ちを喰らわされたように驚くと、ハッと息を吞む。
「おいおい……。
今生(こんじょう)で、お前のそんな顔を見たのは俺だけだろうよ。
ったく……幸村といい、謙信といい、
無意識ほどタチが悪い。
おいっ!
謙信っっ!
聞いてるのか!?
お前の決意の根底にあるものは一体何だ?
そこに答えがあるんだろう?」
緩やかに微笑む謙信の顔がさらに崩れ破顔する。
男でもくらりと惹きつけられるようなその表情で信玄に視線を移すと、はっきり答えた。
「俺も幸村とろきの子をこの手で抱きたくなったのだ」