第3章 紺鼠(こんねず)
信玄は目の前にいる生涯の好敵手(ライバル)に、心から思う気持ちを伝える。
「俺はお前を戦術に於いては日の本一だと認めてるよ。
これから成そうとしている事。
お前なら、きっとできるさ。
謙信、お前の義は美しく真っすぐだ。
覚えてるか?
今川からの経済封鎖の折り、敵対する俺にお前は塩を送ってくれた。
苦境を救ってくれた。
この事を俺は死んでも忘れはせん。
これまで義の為、人の為、散々戦ってきたじゃないか。
毘沙門天様だってちゃんと見てくださってるよ。
惚れた女が行く極楽への通行手形、褒美に貰えるんじゃないか?」
その言葉に……
謙信の、刃のように鋭く美しいオッドアイが中心から左へ流れるように移動する。
「俺が毘沙門天だ」
「おい……
お前さっき自分は人だって言ったばかりじゃねえか…。
ったく、素直じゃないねえ」
着物の袖に両手を交互に差し込みながら、呆れ顔の信玄を気にすることなく謙信は言葉を続ける。
「それに…………」