第3章 紺鼠(こんねず)
二人が出て行った後の部屋はやけに静かで、
木々のざわめきと野鳥のさえずりの中、信玄と謙信が碁を打つ音だけがやけに大きく響く。
庭先にいたはずのろきと道三もいつの間にか見当たらず、
向かい合わせに座り黙々と石を打つだけの謙信に、信玄は碁盤を見つめたまま話を切り出した。
「幸にはああ言ったものの……
お前の気持ちを10とするなら、さっきの話は1だ。
残りの9は……」
パチンッ
信玄が打った石が、小気味良い音を響かせる。
碁盤からゆっくりと視線だけを謙信に向けると、射すくめるような瞳でじっと見つめた。
「惚れたか……謙信。
ろきはお前の生き方を変える程の存在になったという事だろう?」
「……………ああ」