第3章 紺鼠(こんねず)
「はぁ……。
信念変える程、何かあったんじゃねえかって……。
余計な心配しちまったじゃねーか」
「まぁまぁ、幸。
何を言い出すのかわからないのが謙信だろう?
こいつがこう言うんだから、俺たちも協力すればいいだけの話さ」
「それにしたって……」
何とも言い難い表情で後ろ髪をポリポリ掻く幸村に、更に謙信は言葉を重ねた。
「おい、幸村。
いつまでウダウダ言ってるつもりだ。
出立は三日後。準備しておけ。
わかったら酒を持ってこい」
謙信のマイペースぶりに佐助と顔を見合わせた幸村は、再度ため息をつくとその場に立ち上がり謙信に体を向け直す。
「ここには酒がねえから城下まで行ってくる。
謙信様、少し時間かかるぞ?」
「問題ない」
謙信が返事し終わるのを見計らったように、今度は信玄が体を前のめりにし幸村に懇願する。
「幸! 城下の土産に団子!
団子一本でいいから!
頼むよ~! 一本でいいから!」
「はぁぁああああ!?
今日はもう甘味食ったじゃねえかっっ!
なんだよ土産って!
こっちは使いッ走りで城下に酒買いにいくんだよっ!
んなこと言ってってと、明日の甘味なしだからな!」
「くっっ……そ、それは困る」
「幸村、僕も一緒に行くよ」
前のめりのまま四つん這いの恰好で拳に力を入れ悔しがるようにうな垂れる信玄を無視し、ズカズカと部屋を出て行く幸村を横目に佐助は二人に軽く会釈するとあっという間にその姿を消した。