第3章 紺鼠(こんねず)
次の日、私達は四人揃って道三様の元を訪ねた。
部屋でくつろぐ信玄様は、すっかり顔色も良くなり体調も落ち着いてるようだった。
持ってきた寒天を皆んなで頬張ると一段と美味しく感じられ会話も弾む。
ふと庭先に目をやると、竹ザルが軒下にいくつも並べられていて、気になった私は道三様に尋ねた。
「道三様、あの竹ザルは何ですか?」
「あれは、あかめがしわの葉を干しておるのでございますよ」
「あかめがしわって、昨日の?」
「ええ。あの葉を干して使うのでございます。
風呂に入れれば腫れものに効き、煎じて飲めば胃の腑に効きまする。
ああ、それとこちらも」
道三様は私の目の前に自分の着物の袖を掴んで見せた。
「え?」
意図が分からず呆けた顔で聞き返す私に、にこり微笑み答えてくれる。
「この着物。
あかめがしわの葉で染めたのでございますよ」
「えええええ!
緑の葉なのに染めたらねずみ色になるんですか?」
「ふふ。面白うございましょう?
草木にはいつも驚かせられまする。
ろき様、庭に降りて干した葉を見てみましょうかの?」
「はい!」
道三に連れられ嬉しそうに庭へ降りて行くろきの後ろ姿を、四人の男達は見守るように優しい眼差しで部屋から見つめる。
謙信の来訪に察した道三が気をきかせ、頃合いを見てろきを連れ出してくれたのは皆がわかっていた。