第3章 紺鼠(こんねず)
ーー己の命を捨てるより生かす道を選ぶ
道三様はそう教えてくれた。
謙信様、信玄様、幸村、佐助君、そして安土の皆がこの動乱の世で生きる為に、これからもこうしてずっと一緒にいられるように考えてくれてる。
道を照らしてくれる。
だからこそ今を大事にしよう。
この時を精一杯みんなと生きよう。
改めてそう思った。
「佐助君も疲れてるでしょ?
ゆっくりして。
謙信様には私がお酌する」
「ありがとうろきさん。
じゃお言葉に甘えるよ。
ああそうだ。夕餉の膳を運んで貰うように伝えてくる」
「あ……佐助、俺も行く」
佐助君と幸村はそう言うと広間を後にした。
謙信様の側に近寄り、盃にとくとくお酒を注ぐ。
「どうぞ……謙信様」
私の言葉に返すことなく、黙って長いまつ毛を伏せて盃が酒で満たされていくのをじっと見つめながら、謙信様は呟くように尋ねた。
「ろき、幸せか?」
「はい。
みんなの側にいられて、これ以上の幸せはありません」
「そうか」
盃から視線をそらさぬまま返事を返す謙信様は、今まで見たことのない優しい表情でため息にも似た笑みを漏らした。
何故そんな表情をするのか、何故急にこんな事を聞くのか自身の思いと重なり不安になる。
「何か……あったんですか?」
「いや。お前が幸せであればそれでいい」
「みんながいるから幸せなんです。
誰一人欠けても、ダメなんです!
私1人でしあわせになんかなりません!」
「……ああ、そうであったな。
ろき、明日は俺も信玄の見舞いに行く。
ともに参ろう」
謙信様はそう言うと、盃になみなみと注がれた酒を一気にクイッと喉に流し込んだ。