第3章 紺鼠(こんねず)
城へ戻ったばかりの謙信と佐助の視線の先には、仲睦まじく体を寄り添いあい眠るろきと幸村の姿があった。
「なんだあれは」
「なんだあれはって……
幸村とろきさんですよ」
「そんな事お前に言われなくともわかっている。
幸村め、腑抜けた顔して寝おってからに……
俺が喝を入れてきてやる」
「無粋な真似はやめて下さい謙信様。
『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ』って言うでしょう!」
「何が無粋だ!
矢も弓も刃も軍神たる俺を避けるのだ。
馬に蹴られて死ぬ事などあり得ん!」
「分かりましたから……
とりあえず広間へ行きましょう。
とにかく邪魔しないで下さい!」
「あれでは守れるものも守れないであろう!
敵に斬ってくれと言ってるようなものではないか!」
「今ここに敵はいませんから………」
幸村から視線を離さず、刀の鐔(つば)に手を掛けたまま今にも斬りかかって行きそうな謙信の体を抱えた佐助は、引きずるように広間へ続く廊下を歩いて行った。
夕日が傾きかけた頃、目を覚ました幸村と部屋へ戻ろうと廊下を歩く私達の視界の先には入口で待つちよさんがいた。
「あれ? ちよさん? どうしたんだろ……」
「ああ」
いつも呼びかけに来ることはあってもこんな風に座って私達を待つことは珍しい。
怪訝に思いながら近づくと、私達に気づいたちよさんはこちらに体を向け深々と座礼した。
幸村は探るような眼差しで問いかける。
「どうした、ちよ」
「謙信様と佐助様がお戻りになり、共に夕餉をと広間にてお待ちになられております」
ーーえ!? 戻ってる?
ちよさんの言葉に胸がどくどく波打つのがわかる。
ーー調査終わった?
それなら次は?
どうなる?
戦?
それとも……?
思いとは裏腹に幸村の冷静な声音が聞こえる。
「わかった。謙信様にすぐ行くと伝えてくれ」
「かしこまりました」
ちよさんの後ろ姿を見送り部屋へ戻ると私達は身支度を整え謙信様達の待つ広間へ向かった。