第3章 紺鼠(こんねず)
縁側に戻ると珍しく信玄様と幸村が碁を打っていた。
掌で碁石を転がしながら楽しそうに碁盤を見つめる信玄様と、両手で頭を抱えて次の一手を考えあぐねている幸村の対照的な姿が可笑しくて私は思わず吹き出した。
「ぷっ」
声に気づいた幸村は、飛びつくような勢いで体を私に向けると安堵の笑みを浮かべた。
「やっと戻ったか。
信玄様、ろきが戻るまでって約束だったんだ。
もういいだろ?」
「幸〜、これからじゃないか。
もう少し付き合ってくれよ〜」
「俺が碁苦手なの知ってんだろ……
あ、そうだ道三。代わってくれ」
「ふふ。幸村様の頼みとあらば断るわけにはいきますまい」
「恩にきる。よし、ろき帰るぞ。
んじゃ信玄様、また明日な」
「あ、おい! 幸! 待て」
幸村は信玄様が呼び止めるのもお構いなしに、そそくさと逃げるように庭へと降りた。
そんな幸村を横目に二人に声をかける。
「道三様、信玄様をよろしくお願いします。
信玄様、明日又伺いますね」
「ああ、楽しみに待っているよ。気をつけて帰るんだよ?」
「はい」
「おお、忘れるところにござりました。
ろき様、ちとお待ち頂けますかな?」
「は、はい」
道三様はそう言うと土間へ行き包みを抱えて戻ってきた。
「庭で採れた栗にございます。
わたくし一人では食べきれませぬ故」
「わぁ~立派な栗! 道三様、ありがとうございます。遠慮なく頂きます」
差し出された包みを受け取るとにこやかに微笑む信玄様と道三様に軽く会釈をし、庭先で待つ幸村の元へ向かった。