第3章 紺鼠(こんねず)
「今の世は欲に駆られた邪念が渦巻いておりまする。
それ故、戦も無くならぬのでござりましょう。
ですがろき様の心はこの葉と同じ。
雑念のない清らかな心だからこそ安土や春日山の皆様方を繋ぐ架け橋になる事が出来たのだとこの道三は思うておりまする。
ろき様がおられねばそう遠くない未来必ず信長様、信玄様、謙信様は刃を交えていた事でしょう。
あなた様の心に触れた者は皆、己の命を捨てるより生かす道を模索し選ぶ。
ろき様、ご案じめされますな。
此度の事、謙信様もきっとより良き道を照らして下さります」
「っ……はい」
ーー己の命を捨てるより生かす道を選ぶ。
道三様の言葉で心の奥底にあった不安が溶けるように消えていく。
目の前にある紅葉に目をやれば、先程より更に鮮やに映って見えた。
「気持ちひとつでこんなにも違って見えるものなんですね。
道三様、ありがとうございます」
「ふふ。わたくしは何も……
それに礼など言われると体がむず痒うてたまりませぬ」
「ぷっ」
穏やかな日差しが降りそそぐ中、ゆっくり肩を並べて庭を散策する。
見慣れない草木の名を時折尋ねる私に道三様は優しく丁寧に教えてくれた。
豊かな自然に囲まれて静かにゆっくり深呼吸すると木々や土の香り、そこに息づく命や力を感じて自分も逞しくこうありたいと強く思った。