第3章 紺鼠(こんねず)
道三様は庭の片隅に置いてあるつくばいの前まで行くと、色とりどりに染まった木々を見渡し見惚れたような声を出す。
「今年の紅(くれない)は誠に美しゅうございますなあ」
「はい。本当に綺麗……落ちるのが忍びなくて。
このまま時が止まればいいのにと思ってしまいます」
「ふふ。わたくしもそう思うておりました。
ろき様とは相通ずるものがあるのやもしれませぬ」
「相通ずるもの?」
「ろき様とわたくしの思いは似ているという事にございます」
笑みを浮かべ私を見つめる黒い聡明な瞳に自分の気持ち全てを見透かされているような気がした。
道三様はふいに腰を屈めると足元に落ちている葉を一枚拾い私の手のひらにそっと置いた。
「あかめがしわ。この葉に与えられた言葉をご存知か?」
「いいえ」
「『澄んだ心』でございます」
「澄んだ心……」