第3章 紺鼠(こんねず)
秋風に草木がそよぐ庭を眺めながら、道三様が取り分けて下さった柿羊羮を頬張る。
ーーさすが甘味屋のご主人が作ったこしあんだけあって最高! 甘さ控えめで、柿との相性もばっちり。
美味しくて思わず顔が綻ぶ。
じんわり味を噛み締めてると、不意にどこからか伸びてきた指先が口の端を拭った。
「あんこ、ついてっぞ」
声の元を辿り目をやると、拭った指先についた餡をペロっと舐め、思わずたじろぐほど色香の漂う幸村のしぐさに、私はまたもや一瞬で見惚れてしまい、囚われたかのように身動きできなくなった。
「あ……」
固まる私の横で信玄様は唖然とした表情で独り言のように呟いた。
「自覚がない分俺よりタチが悪い。
不器用なくせに……そんな仕草一体どこで覚えたんだ」
「これはまた……幸村様のあのようなお姿を見るのは、わたくしも初めてにございますなぁ。
絵に書いた餅が本物の餅になりましたか。
ふっふっふっ」
「まったく……見てるこっちが恥ずかしいよ」
「あなた様にそっくりでございますよ? ふふ」
「…………」
幸村の違う一面を側で目の当たりにした信玄様がうなだれながら呟くと、道三様は笑いを耐えながら諭すように答えた。